事業再生の現場から

事例集④-③

T社長は、デザイン性と立地条件に優れた2つのビルに殊の外、想いを寄せていました。

私が見ても(私も不動産業者のひとりですからね(笑))、T社長家が事業を継続しその古い家系を維持して行くための“収益源”を確保するには、できれば社長が執着するこの2つのビル(T第二ビル、T第五ビル)の所有権を守れればな、と思っていました。

銀行が貸ビル売却を急ぐのを横目に、私達は長く社長を補佐して不動産賃貸の仕事を手伝っていたT氏の実弟を担ぎ出し、資産買取を想定したT’社の設立を急ぎました。

同時に弊社と付き合いのあるノンバンクを数社当たり、2つのビル買戻資金のファイナンスが可能か、水面下での交渉を開始しました。

金融緩和でダブつく資金の運用先を捜している投資家と、収益性の高い不動産の再取得を目指す事業者側をマッチングする事も弊社の重要な仕事です。

幸いなことに打診した中から1社、かなりの好条件で資金調達OKの返事が頂けました。ついでに言うと、物件再取得後のリニューアル資金もこのノンバンクから内々の承諾が得られました。

次は、この二つのビルを始め、T社及びT社長の全財産に等しい貸ビルの抵当権者であるメイン行との担保抹消交渉です。

当初強気だったメイン行も、自身が依頼した自行系列の不動産会社が担保評価以上の買受人を見つけられなかったのでしょう、それならばと、競売で正当な市場価格での売却を計る方向に舵を切ってきました。

実は、私達はT’社を通じて10,000万円で買い取る意思(買付証明)をメイン行に提示していましたが、メイン行はそれ以上で売却できると踏んだようでした。

4か月後、裁判所に提出された「鑑定評価」で記された第二・第五ビル合計の価格は約9,000万円ほどになりました。

此処で再度メイン行と買取交渉です。

T’社にはT社長の親族から更に資金を提供して貰い、買取価格を2,000万円上積みして12,000万円での買取希望をメイン行に提示、1か月以内での資金決済が可能である事を伝えます。(物件の小さな第一、第三、第四ビルは買戻しません)

メイン行も裁判所鑑定価格の30%上乗せ価格であった事、物件の特殊性(飲食ビル、地方駅前etc)等を考えてくれたのだと思います、案外あっさりと再申出を受けて頂き、二回目の買付証明提出から2週間もしないで任意売却OKの回答を得る事ができました。

T社長&T’社にとっては、悲願達成です。

結局、任意売買で買い戻した第二・第五ビル以外の担保物件は、競売に出されたまま不落が続き競売取り下げとなり、結局残債務と合わせてサービサーに譲渡される事になりました。

次回は最終章、サービサー編になります…。



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